「資料が見やすかったよ」と言われて、とっさに「いえいえ、全然です」と返す。控えめにしたつもりでも、あとから「自分を下げすぎたかな」と気になることはありませんか。
謙遜と卑下は、どちらも自分を低くする意味を持つ、近い言葉です。ただ、「卑下」には自分を劣ったものとして扱う意味もあります。まず二つの語義を確かめ、そのあとで、褒められたときに自分の気持ちに合う返事を考えてみましょう。
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謙遜と卑下は、意味が重なる言葉
小学館『デジタル大辞泉』で、謙遜の説明の中心になるのは、へりくだって控えめに振る舞うことです。卑下にもへりくだる意味があり、さらに自分を劣ったものとして扱う意味が示されています。二つは、きっぱり分かれる反対語という関係ではありません。
そのため、「ありがとうと言えば謙遜」「褒め言葉を否定すれば卑下」とだけ分けると、言葉の意味が狭くなってしまいます。会話で考えたいのは、控えめな返事の中で、自分がしたことまで否定していないか、という点です。
| 言葉 | 意味を捉える手がかり |
|---|---|
| 謙遜 | 自分を控えめに扱い、へりくだった態度を取ること。 |
| 卑下 | 自分を劣ったものとして扱うこと。へりくだる意味も持つ。 |
たとえば「まだ勉強中です」は、実際の経験を伝えている場合もあれば、褒められて照れたときの返事でもあるでしょう。一つの表現だけで、その人が自分を嫌っている、褒め言葉を拒んでいるとまでは決められません。
語義の参照元:小学館『デジタル大辞泉』「謙遜」・「卑下」(コトバンク掲載)。以下の会話例は、編集部が作成しています。
褒められてうれしいときは、その気持ちを返す
褒めてもらってうれしいけれど、何と返せばよいか迷う。そんなときは、「ありがとうございます」と短く返す方法があります。自分でもすべて満足している、と言う必要はありません。声をかけてくれたことへの感謝として伝えられます。
話を続けたければ、「見出しを直したところなので、そう言ってもらえてうれしいです」のように、実際に工夫したことを添えられます。周りに助けてもらった仕事なら、「皆さんにも手伝っていただきました」と、そのことに触れる返事も自然です。
料理や服装など、普段の会話でも同じように、自分が感じたことを添えてみませんか。次の例は、褒め言葉がうれしかった場面を想定しています。
| 声をかけられた場面 | 返事の例 |
|---|---|
| 資料が見やすかった | ありがとうございます。図の並べ方を変えたので、そう言ってもらえてうれしいです。 |
| 料理がおいしい | ありがとう。気に入ってもらえてよかった。 |
| その服が似合っている | ありがとう。自分でもこの色が気に入っているんだ。 |
工夫したところが特に思い浮かばないなら、「ありがとうございます」だけでも返事になります。していない準備や、感じていない喜びを付け足さず、自分の言葉で返せる長さにしておきましょう。
気になる点は、できたことと分けて話す
褒められても、自分では気になるところが残っていることもあるでしょう。資料の見やすさは褒めてもらえたけれど、説明をもう少し短くしたかった。そんな場面なら、お礼を伝えたあとに「説明は少し長くなったので、次は短くまとめたいです」と、改善したい点を話してはいかがでしょうか。
「全然できていません」と全体を否定すると、どこを直したいのかまでは伝わりにくくなります。「導入の説明を短くしたい」「図の順番で迷っている」と具体的にすれば、必要な意見も聞きやすくなるのではないでしょうか。
実際に間違いがあったときは、そのことを伝えるのも大切です。「一か所、数字に誤りがあるので直します」と説明することは、自分全体を低く評価することとは区別できます。褒められたからといって、気になった点を隠す必要はありません。
言葉選びをもう少し学びたい方へ
ほめ方や説明の仕方を扱う一冊
岡本純子さんの『世界最高の伝え方』(東洋経済新報社)には、ほめ方や説明・指示を扱う章があります。言葉の選び方を広く考えたいときに、出版社の目次から気になる章を探せます。この記事の返事の例は編集部が作成したもので、本からの引用ではありません。
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「いえいえ」と返した自分を、責めなくてもいい
とっさに「いえいえ」と答えたあとで、気になり続けることもあるかもしれません。照れたときの口調や相手との関係によっても受け止め方は変わるので、その一言で相手を困らせたと決めつけなくてよいでしょう。
もし相手が「でも、本当に助かったんだよ」と話してくれたら、「そうだったんですね。役に立ててよかったです」と返すこともできます。すでに会話が終わっていても、後日その話題が出たときに、うれしかった気持ちを伝える機会はあるかもしれません。
返事を直したくなったときも、毎回あとから訂正しなければならないわけではありません。次に似た場面が来たら、自分が言いやすい返事を一つ試してみるくらいから始められます。
受け入れたくない言葉に、喜びを合わせない
見た目への言及や、人と比べる褒め方に、戸惑うことはないでしょうか。うれしく感じなければ、喜んでいるふりをする必要はありません。「見た目の話はあまりしたくないです」と伝えたり、別の話題へ移ったりする選択もあります。
褒め言葉を受け取る話は、自分の気持ちを隠して相手に合わせるための決まりではありません。うれしかったことはうれしかったと話し、戸惑ったときは話す範囲を選ぶ。語義を知ったうえで、自分が伝えたいことに合う言葉を探したいですね。
普段の人付き合いで、話題や距離の取り方を考えたいときには、次の記事も参考になります。
自分に向ける言葉が気になるときには、自分との付き合い方を扱う記事もあります。
会話のあとも苦しさが続くときには
褒め言葉への返事に限らず、日々のやり取りがつらく感じられることもあるでしょう。日々の生活に支障が出るほど苦しさが続くときは、返事の練習だけで抱え込まず、専門の相談先を利用する方法があります。
相談方法を探すときは、厚生労働省のまもろうよ こころで、電話やSNSなどの窓口が案内されています。

