「この仕事、本当に必要なんだろうか?」——そんな疑問を心のどこかで感じたことはありませんか?
人類学者デヴィッド・グレーバーが提唱した「ブルシット・ジョブ」(直訳すると「クソどうでもいい仕事」)という概念は、まさにこの問いを真正面から突きつけ、世界中で100万人以上の共感を呼びました。
この記事では、ブルシット・ジョブの定義から5つの分類、日本企業ならではの具体例、あなたの仕事がブルシット・ジョブかどうかのセルフ診断、そして今日からできる脱出アクションプランまでを一気に解説します。
ブルシット・ジョブとは?——グレーバーの定義をわかりやすく
ブルシット・ジョブ(Bullshit Jobs=BSJ)は、文化人類学者デヴィッド・グレーバー(1961〜2020)が2013年に発表したエッセイで提唱し、2018年に書籍化した概念です。
その定義を一言でまとめると、こうなります。
被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている。デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ』岩波書店(2020年)p.27-28
ここで押さえておくべきポイントは3つあります。
1.仕事そのものが無意味・不必要・有害であること
単に「つまらない」ではなく、なくなっても誰も困らない仕事のこと。
2.本人がその無意味さを自覚していること
「自分の仕事は世の中に何の役にも立っていない」と本人が感じている。
3.意味があるかのように「演技」しなければならないこと
この取り繕いこそが、働く人の精神を蝕む最大の苦痛源になるとグレーバーは指摘しました。
グレーバーってどんな人?
デヴィッド・グレーバーは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の人類学教授で、2011年のウォール街占拠運動(Occupy Wall Street)では「We are the 99%」というスローガンの着想に関わった知識人です。
労働者階級の家庭に育ち、資本主義と官僚制を一貫して批判し続けた彼は、主著『負債論——貨幣と暴力の5000年』でも知られています。2020年9月、邦訳『ブルシット・ジョブ』刊行のわずか1ヶ月後に59歳で急逝しました。
たった9分のエッセイが世界を揺るがした
ことの始まりは2013年8月、英国の急進的雑誌「STRIKE!」に寄稿したわずか9分で読める短いエッセイでした。
公開直後にウェブサイトがサーバーダウンし、100万回以上の閲覧、1週間で12言語以上に翻訳。ロンドン地下鉄にはエッセイの引用がゲリラポスターとして貼り出される社会現象にまでなりました。
その反響を受け、英国の世論調査会社YouGovが実施した調査では、イギリスの労働者の37%、オランダでは40%が「自分の仕事は世の中に意義ある貢献をしていない」と回答。
世界中から250件以上の体験談が寄せられ、これらを体系化する形で2018年に書籍『Bullshit Jobs: A Theory』が出版されました。
日本語版は2020年7月、コロナ禍のまっただなかに岩波書店から刊行。エッセンシャルワーカーへの注目が高まる時代の空気とも重なり、4,000円超の学術書としては異例のベストセラーとなりました。
紀伊國屋じんぶん大賞2021では第1位を獲得しています。
5つの分類と「あるある」な具体例
グレーバーは世界中から集めた体験談を分析し、ブルシット・ジョブを5つのタイプに分類しました。日本の職場に当てはめた例とあわせて見ていきましょう。
| タイプ | どんな仕事? | 日本の職場での「あるある」 |
|---|---|---|
| ① 取り巻き (Flunkies) | 誰かを偉そうに見せるためだけに存在する仕事。封建時代の家来の現代版。 | 上司の好みの飲み物を把握して出す係、役員送迎のためだけに待機するドライバー、権威付けのためだけの会議体 |
| ② 脅し屋 (Goons) | 他人を攻撃したり欺いたりする要素がある仕事。競合が同種の人員を雇っているから必要になる構造。 | 競合への対抗キャンペーンだけを企画する部門、攻撃的なマーケティングチーム |
| ③ 尻ぬぐい (Duct Tapers) | 本来あってはならない組織の欠陥を取り繕うためだけの仕事。雨漏りの屋根を直さず、バケツの水を捨てる係。 | 上司の失敗のフォローに追われる部下、根本原因を修正せず謝罪し続けるクレーム対応部門 |
| ④ 書類穴埋め人 (Box Tickers) | 組織が「やっている」と主張するための実績づくり。「やっているふり」の演出担当。 | 誰も読まない稟議書の作成、ISO認証取得後に形骸化したチェックシートの記入、決裁後しまい込まれる調査資料 |
| ⑤ タスクマスター (Taskmasters) | 他人に仕事を割り当てるだけの仕事、またはブルシットなタスクを作り出す仕事。 | 部下に不要な報告を求め続ける上司、功名心で新プロジェクトを乱立させる管理職 |
ブルシット・ジョブ vs シット・ジョブ——決定的な違い
ブルシット・ジョブとよく混同されるのが「シット・ジョブ」です。似ているようで、実はまったく逆の性質を持っています。
グレーバーはこの対比にこそ現代社会の矛盾があると指摘しました。「その労働が他者の役に立つものであればあるほど、報酬はより少なくなる」という逆説です。コロナ禍では、エッセンシャルワーカーが社会を支えながら低賃金に置かれている現実が改めて可視化されました。
一方、チームビルディング研修や企業ダイバーシティワークショップは「誰も特に気づかないまま」中止されたと、経済学者の斎藤幸平氏は指摘しています。
「きつい」と感じても「誰かの役に立っている」と思えるシット・ジョブの従事者に対して、BSJの従事者は快適な環境にいながら「自分の存在に意味がない」という苦痛を抱えます。この質的に異なる精神的ダメージこそ、ブルシット・ジョブ問題の核心です。
なぜ「クソどうでもいい仕事」は増え続けるのか
なくても誰も困らない仕事が、なぜなくならないのか。
グレーバーはいくつかの構造的な原因を指摘しています。
経営封建制——「部下の数=権力」という力学
現代の企業マネージャーは、チームの規模が大きいほど社内での発言力が増す構造の中にいます。
純粋な効率性で考えれば不要なポジションでも、「人を抱えていること」自体が権力の源泉になる。グレーバーはこれを中世の封建制度になぞらえ、「経営封建制(マネジェリアル・フューダリズム)」と名づけました。
実際、アメリカの雇用統計では1910年から2000年にかけて工場労働者・農業従事者が激減した一方、金融サービス、企業法務、人事管理、広報といった「管理部門」の人数は3倍に膨れ上がっています。
ネオリベラリズムの逆説——「説明責任」が仕事を増やす
市場の自由化を掲げるネオリベラリズムが「アカウンタビリティ(説明責任)」を過度に強調した結果、皮肉にも監査・コンプライアンス部門が肥大化しました。
たとえば、かつての大学ではシラバスの作成は教員間の簡単なやり取りで済んでいたのに、いまでは12段階もの管理チェックが必要になるケースも。グレーバーはこれを「数値化しえないものを数値化しようとする欲望」の帰結だと分析しています。
テクノロジーの逆説——なぜ週15時間労働は実現しないのか
経済学者ケインズは1930年に「21世紀末には技術の進歩により週15時間労働が実現する」と予言しました。技術的にはすでに可能なはずですが、現実にはそうなっていません。
グレーバーの指摘はシンプルです。テクノロジーは労働時間を短くするためではなく、より一層働かせるために活用されてきた、と。
多くの人が週40〜50時間働いていても、実質的に有意義な仕事をしているのはケインズの予測通り15時間程度で、残りの時間はモチベーション・セミナーやSNS閲覧に費やされていると主張しました。
政治的な理由——雇用数の維持という圧力
政治家にとっても「雇用を減らす」ことは票を失うリスクに直結します。ブルシット・ジョブを削減することは、構造的に難しいのです。
さらにグレーバーは踏み込んで、「忙しい仕事に追われている人は反乱を起こす時間が少ない」と、支配構造との関連まで論じました。
日本企業のブルシット・ジョブ事情——忖度文化が生む「やってる感」
コロナ禍で可視化された「不要な仕事」
日本のブルシット・ジョブ問題が一気に浮上したのは、コロナ禍がきっかけでした。
リモートワークが広がるなか、ハンコを押すためだけに出社させられる会社員の姿が社会問題として大きく報じられたのです。
通勤しなくても業務が回る人が相当数いることが、図らずも証明されてしまいました。
パーソル総合研究所の調査によれば、メンバー層の23.3%、上司層の27.5%が「会社の会議はムダだ」と認識しています。1万人規模の企業では、このムダ会議による人件費損失が年間約15億円と試算されています。
忖度が生む、壮大なムダの実例
日本企業ならではのBSJエピソードは枚挙にいとまがありません。
ある企業では、常務が「緑色のレーザーポインターが欲しい」と漏らしたことを受け、15名のスタッフが5〜7時間かけて社内中を探し回りました。
ところが翌日、常務は何食わぬ顔で赤いポインターを使ったそうです。
別の企業では、役員会議資料のフォントと配色の調整だけに10名×1週間が費やされました。忘年会の副社長接待のために、席次・料理・飲み物・動線・余興まで検討する専門チームが組まれた事例もあります。
さらに象徴的なのは日本の菓子メーカーの例です。
海老原嗣生氏の著書『静かな退職という働き方』(2025年)によると、日本の菓子メーカーは年間40〜50もの新商品を開発しますが、売上の8割以上は既存の定番商品。
一方、欧米メーカーはほとんど新商品を出さずに売上を維持しています。この「やっている感を目いっぱい示すだけの行為」は、まさにBSJの構造的産物と言えるでしょう。
日本固有のBSJが生まれる構造
リクルートワークス研究所は「日本版ブルシット・ジョブ研究プロジェクト」(2024-2025年)を立ち上げ、日本企業への聞き取り調査から以下のような日本固有の要因を分析しています。
日本の職場満足度は34カ国中最下位(Statista 2019年)、ギャラップ調査では仕事にやる気のある社員はわずか6%という衝撃的な数字が報告されています。
これらの数字がブルシット・ジョブだけを反映しているわけではありませんが、多くの人が仕事に意味ややりがいを見出せていない現状の一端を示しているのは間違いありません。
ブルシット・ジョブがもたらす深刻な影響
「無意味な仕事」は失業よりもつらい
グレーバーはロシアの文豪ドストエフスキーの言葉を引用しています。
一人の人間をすっかり押しつぶし、破滅させてやろうというなら、一から十まで全く無意味な作業をさせればいいのだ。ドストエフスキー『死の家の記録』
十分な報酬をもらいながら、何の役にも立っていないことへの罪悪感。それでも意味があるかのように振る舞い続けなければならない「演技」の苦痛。
この組み合わせは、実は失業の苦痛とは質的に異なる精神的暴力だとグレーバーは論じました。
象徴的な事例として、スペインのある公務員の話があります。この人物は6年間、一度も出勤せずに自宅でスピノザの哲学研究に没頭していたのですが、誰も気づかなかったのです。
職場にいてもいなくても何も変わらない——その事実に気づいていた本人は、発覚前にすでに深刻なうつ状態に陥っていました。
個人への影響
BSJに従事する人に生じやすい問題として、うつ病や不安障害、自尊心の低下、無力感や意欲の減退が挙げられます。
人間が本来持つ「自分の行動を通じて世界に影響を与えたい」という根源的な欲求が満たされないことが、その根底にあると考えられます。
さらに厄介なのは、高給で快適な環境にいるがゆえに、不満を口にしにくいという点です。グレーバーはこれを「自らの惨めさに権利を感じられない惨めさ」と表現しました。
社会への影響
BSJの蔓延は、個人の問題にとどまりません。人的資本、時間、資金といった社会的な資源の膨大な浪費を意味します。
本来であれば真に生産的な活動に向けられるべきリソースが、無意味な仕事に吸い取られている。テクノロジーによる生産性向上の恩恵がBSJセクターの拡大に相殺され、社会全体のイノベーションが阻害される懸念も指摘されています。
本当にそうなの? グレーバー理論への批判と反論
ここまでグレーバーの主張を紹介してきましたが、この理論にはかなり強い批判も存在します。
公平を期して、主要な反論も押さえておきましょう。
「37〜40%」は本当か?——大規模調査が示す別の数字
グレーバーが依拠したYouGov調査では「37〜40%がBSJだ」とされましたが、Soffia, Wood & Burchellが2022年に発表した学術論文(ヨーロッパ35カ国、44,000人対象)では、自分の仕事が役に立っていないと答えた人はEU全体でわずか4.8%でした。
しかも、この比率は時系列で見ると減少傾向にあります(2005年の7.8%→2010年の5.5%→2015年の4.8%)。「BSJは増えている」というグレーバーの主張とは正反対の結果です。
一方で、Simon Walo(2023年)の米国データに基づく研究では、グレーバーが指摘した職種の労働者は自分の仕事を社会的に無用と感じる確率が有意に高く、米国では19%以上がそう感じているとの結果も出ています。
つまり、金融化が進んだ経済圏では、グレーバー理論がより当てはまる可能性があるわけです。
「主観的な定義」の問題
最大の論争点は、ブルシット・ジョブの定義が「本人がそう感じるかどうか」に依存している点です。
ある人にとって無意味に思える仕事が、別の視点からは重要な機能を果たしている可能性は十分にあります。
社会学者のPittsとThompsonは、統計が示すのは「ブルシット・ジョブ」ではなく「仕事の中のブルシット要素(bullshit in jobs)」ではないかと反論しました。
つまり、仕事全体がブルシットなのではなく、どんな仕事にもブルシットな部分が含まれている、という見方です。
労働時間はすでに減っているという指摘
英国の平均労働時間は1900年の56時間から2018年の31時間に減少しています。ケインズの予言は「完全に外れた」わけではなく、部分的に実現しつつあるのです。
この観点からすると、グレーバーの議論の前提そのものに疑問が生じます。
結局、どう捉えるべき?
現時点での学術的なコンセンサスは「グレーバーの理論は完全に正しくもなく、完全に間違いでもない」という中間的な評価に近いようです。EU全体ではBSJ認識率は低い一方、金融化が進んだアングロサクソン経済圏(米国・英国)では比較的高い。地域やセクターによって妥当性が異なる、というのが現実的な見方でしょう。
あなたの仕事は大丈夫? BSJセルフ診断チェックリスト
ここまでの内容を踏まえて、あなた自身の仕事を振り返ってみましょう。
グレーバーの5分類と、BSJに関する研究から導き出した10項目のチェックリストです。
🔍 ブルシット・ジョブ度セルフ診断
✔自分がいなくなっても、業務に支障が出ないと思う
✔自分の仕事の成果が、誰かの役に立っている実感がない
✔「なぜこの仕事をしているのか」と聞かれて、納得のいく説明ができない
✔忙しそうに見せるための「演技」をしている時間がある
✔上司や組織のメンツを保つためだけの作業が多い
✔本来不要なはずの根回し・調整・承認プロセスに時間を取られている
✔誰も読まない報告書・資料を定期的に作成している
✔他の誰かの失敗や怠慢の後始末が主な業務になっている
✔自分の仕事がなくなっても社会には何の影響もないと感じる
✔仕事のことを考えると虚しさや罪悪感を感じることがある
■該当数の目安
0〜2個
健全。仕事に意味を見出せている状態です。
3〜5個
仕事の中にBSJ要素が含まれています。
業務の棚卸しを検討してみましょう。
6〜8個
BSJ度が高い状態。ジョブ・クラフティングや環境の変化を真剣に考える時期かもしれません。
9〜10個
深刻なBSJ状態。心身への影響が出る前に、次のセクションのアクションプランを参考にしてみてください。
なお、このチェックリストはあくまで簡易的な自己診断です。チェックが多いからといって即座に転職すべきとは限りません。
まずは「なぜそう感じるのか」を掘り下げることが大切です。
また、批判の章でも触れたとおり、自分では無意味に感じていても、客観的には重要な役割を果たしている可能性もある点は忘れないでください。
ブルシット・ジョブから抜け出す5つのアクションプラン
チェックリストで「BSJ度が高い」と感じた方へ。グレーバーの理論と各種研究をもとに、今日から取り組めるアクションプランをまとめました。
今の仕事の中で、自分が主体的に変えられる部分はないか探してみましょう。業務の範囲・やり方・人間関係のどこかを少しずつ変えることで、同じ職場にいながら仕事の意味合いを変えるアプローチです。BSJの中にも「意味のある部分」を見つけ出し、そこに時間を集中させる方法です。
1週間、自分の業務をすべて記録してみてください。「この作業は誰のためになっている?」と問いかけ、答えが出ないものにマーカーを引く。可視化するだけで、上司や組織に改善提案しやすくなります。トヨタ生産方式の「7つのムダ」をホワイトカラー業務に応用するアプローチも参考になります。
BSJから抜け出すための最大の武器は「他に行ける力」です。デジタルスキル、プログラミング、データ分析など、市場価値の高いスキルを身につけることで転職や副業の選択肢が広がります。SMBCグループでは全従業員対象のデジタル教育を開始し、約2万人が受講した事例もあります。
副業やプロボノ(専門スキルを活かしたボランティア)から始めるのも手です。いきなり転職しなくても、「自分の力が誰かの役に立っている」実感を得られる活動を週末だけでも持つことで、精神的なバランスが大きく変わります。
一人で抜け出すだけでなく、組織の中からBSJを減らす働きかけも可能です。不要な会議の廃止提案、ハンコレスの推進、業務フローの見直し——DX推進やアジャイルな仕事の進め方は、BSJの対極にある働き方として注目されています。
AI時代のブルシット・ジョブ——消える仕事、新たに生まれる仕事
ChatGPTをはじめとするAIの急速な普及は、ブルシット・ジョブにどんな影響を及ぼすのでしょうか。
AIが減らすBSJ
データ入力、定型的な書類作成、形式的な報告書の作成——こうした「書類穴埋め人」タイプのBSJは、AIによって大幅に効率化・削減される可能性があります。
実際、AIの導入で「これまで半日かかっていた資料作成が30分で終わるようになった」という声は増えています。
AIが生み出す新たなBSJ
しかし、事態はそう単純ではありません。
冨山和彦氏の著書『ホワイトカラー消滅』(2024年)は、AIで業務が高速化しても、そこから新たなチェック業務やレポーティングが生まれる「AIブルシット・ジョブ・ループ」のリスクを警告しています。
たとえば、AIが生成した文書のファクトチェック担当、AIの出力を監視する専門チーム、AI倫理審査委員会——これらが本質的に価値ある仕事なのか、それとも新しいタイプのBSJなのか。その線引きは簡単ではありません。
リモートワークとBSJの関係
リモートワークの普及は、オフィスで「忙しいフリ」をすることを難しくした点で、BSJの可視化に寄与しました。
しかし一方で、管理職が物理的な監視の欠如を補うために、過剰な報告義務やモニタリングツールを導入すれば、それ自体が新たなBSJの温床となりえます。
テクノロジーは「ツール」にすぎません。
それをBSJの削減に使うのか、それとも新たなBSJの製造に使うのかは、組織と個人の選択にかかっています。
「働く意味」を問い直す時代へ
デヴィッド・グレーバーのブルシット・ジョブ理論は、統計的な正確性について議論があるものの、現代社会に「あなたの仕事は本当に必要ですか?」という根源的な問いを突きつけました。
この問いに対する答えは一律ではありません。
EU全体ではBSJ認識率は5%前後と低い一方、米国では19%以上。日本固有の雇用慣行——メンバーシップ型雇用、年功序列、忖度文化——がBSJを生みやすい構造を持っていることも、研究から見えてきています。
大切なのは、「ブルシット」を特定して批判することに留まらないことです。
「自分の仕事のどこに意味があるのか」を問い直すこと。無意味だと感じるなら、ジョブ・クラフティングやリスキリングで自分から変えていくこと。
そして、真に価値のある仕事が正当に評価される社会をどう作っていくか——この問いに向き合うことこそが、ブルシット・ジョブ理論が私たちに投げかけた本当の課題ではないでしょうか。
📚 参考文献・関連書籍
- デヴィッド・グレーバー『ブルシット・ジョブ——クソどうでもいい仕事の理論』岩波書店、2020年
- 酒井隆史『ブルシット・ジョブの謎——クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』講談社現代新書、2021年
- 海老原嗣生『静かな退職という働き方』PHP研究所、2025年
- 冨山和彦『ホワイトカラー消滅』東洋経済新報社、2024年
- ブレイディみかこ『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』角川書店
- Soffia, Wood & Burchell (2022) “Alienation Is Not ‘Bullshit'” Work, Employment and Society
- Simon Walo (2023) “‘Bullshit’ After All?” Work, Employment and Society
- リクルートワークス研究所「日本版ブルシット・ジョブ研究プロジェクト」2024-2025年

