「潜在的攻撃性」と「顕在的攻撃性」は、資料によって意味が変わります。この記事で引用する心理学研究では、本人が質問紙で答えた攻撃傾向を「顕在的な測度」、反応時間から間接的に調べる自己と攻撃の結びつきを「潜在的な測度」としています。一般向けの解説では、攻撃行動が表に出ているか、見えにくい形で行われるかを分ける言葉として使われます。
測定方法の話と行動様式の話を同じ区別として読むと、「返事が遅いから潜在的に攻撃的だ」といった決めつけにつながります。言葉の意味を確かめる時は、論文が何を測っているのか、解説がどんな行動を分類しているのかを確認してください。
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潜在的攻撃性と顕在的攻撃性には二つの使われ方がある
まず、読んでいる資料が「測り方」を説明しているのか、「行動の表れ方」を説明しているのかを確認します。同じ日本語でも、比較している軸が違うからです。
| 区別する場面 | 顕在的の意味 | 潜在的の意味 | ここからは判断できないこと |
|---|---|---|---|
| 研究上の測定 | 本人が質問紙で報告した攻撃傾向 | IATなどの間接的な課題で測る連合 | 本人の本心、診断、将来の行動 |
| 行動の表れ方の説明 | 表立った、対面的な行動 | 隠れた、非対面的な行動と説明されることがある | 一つの曖昧な行動から、その人に攻撃意図があるかどうか |
論文にBAQやIATと書かれていれば、測定方法の話です。「表立った行動」「隠れた行動」と書かれていれば、行動様式を分けている可能性があります。ここを見分けると、同じ言葉なのに説明が食い違って見える理由が分かります。
研究では、二つの攻撃性をどのように測り分けるのでしょうか。国内で使われている質問紙とIATの例から確認します。
研究では質問紙とIATを使い分ける
顕在的攻撃性を質問紙で測る例
日本版Buss-Perry攻撃性質問紙(BAQ)は、身体的攻撃、言語的攻撃、短気、敵意に関する項目に本人が回答する質問紙です。この記事で引用する研究は、この自己報告の得点を「顕在的な測度」としています。
質問紙は、用意された項目への自己報告を数値化したものです。誰かを診断するための判定表ではありません。
潜在的攻撃性をIATで測る例
IAT(潜在連合テスト)は、画面に出た言葉や画像をキーで分類し、その反応時間から概念同士の相対的な結びつきを調べる方法です。攻撃に関する言葉と自己概念の結びつきなどを測り、「潜在的攻撃性」の指標とする研究があります。
IATは、本人が隠している攻撃計画を読み取る検査ではありません。IATの研究実務に関する指針も、単回の得点で個人を分類したり診断したりしないよう注意を促しています。
二つの得点は個人の診断結果ではない
2013年の国内研究では、大学生71人の顕在的攻撃性をBAQ、潜在的攻撃性をIATで測り、実験中に相手へ与えた不快な音の強さとの関係を調べました。この実験では、IAT得点と音の強さに関連が見られましたが、BAQ得点との関連は確認されませんでした。
対象は71人の大学生で、行動指標も実験室内の一つの課題です。この結果だけで、「IATの得点が高い人は日常で攻撃する」「BAQの得点が低い人は安全だ」と結論づけることはできません。研究結果を読む時は、対象者、測定方法、観察した行動まで一緒に確認します。
ここまでが、研究上の「顕在的・潜在的」という区別です。続いて、一般向けの説明で見かける「見える攻撃・隠れた攻撃」との違いを見ていきます。
「見える攻撃・隠れた攻撃」は別の分類
攻撃行動の研究には、表立った行動をovert、隠れて行われる行動をcovertと分ける考え方もあります。これは、質問紙とIATを分けるexplicit・implicitとは別の軸です。
1985年のメタ分析は、児童の反社会的行動を対象に、口論やけんかなどの対面的な行動と、盗みや無断欠席などの隠れた行動を検討しました。成人の日常のやり取りを判定した研究ではありません。
「潜在的」という日本語だけを見て、「表には出さない悪意」と読み替えると、研究上の意味から離れます。英語の用語、測定方法、研究の対象者まで見ると、どちらの分類なのかを確かめられます。
実際の人間関係では、用語を分けても相手の意図までは分かりません。次は、曖昧な行動をどう整理するかを確認しましょう。
無視や返信の遅れだけでは攻撃性を判断できない
返信が遅れた理由には、忙しい、見落としている、返事を考えている、会話を避けている、意図的に情報を止めているなど、複数の可能性があります。外から見える一つの行動だけでは、害を与える意図があったかどうかを確定できません。
相談先には、相手の性格を推測せず、実際に起きたことを伝えます。次の項目を整理しておくと、状況を説明しやすくなります。
- 実際に言われた言葉、行われたこと
- 一度だけか、繰り返されているか
- 日時、場所、その場にいた人
- 業務に必要な情報が共有されなかったなど、仕事の進行への具体的な支障
- 仕事、睡眠、生活、安全への影響
意図が分からない時も、業務や生活への支障は具体的に相談できます。日時と行動を事実として残しておけば、職場の相談窓口や公的機関へ状況を説明しやすくなります。
さらに、「間接的攻撃」「関係性攻撃」「受動攻撃」という近い言葉もあります。似て見えても、すべてが潜在的攻撃性の言い換えではありません。
間接的攻撃・関係性攻撃・受動攻撃は同義ではない
間接的攻撃、関係性攻撃、受動攻撃には、それぞれ異なる研究史や定義があります。たとえば関係性攻撃の研究では、仲間関係や集団への所属を傷つける行動を扱います。IATで測る潜在的攻撃性とは、比較している軸が違います。
これらは研究の対象、定義、測り方が異なります。「直接殴らない攻撃」を一括して潜在的攻撃性と呼ぶことはできません。もし「潜在的攻撃性パーソナリティ障害」という名称を見かけても、正式な診断名だとは限りません。今回確認したICD-11の公式資料では、この名称を診断名として確認できませんでした。ウェブ上の特徴一覧だけで、自分や相手へ病名を付けないでください。
脅しや暴力が起きている場面では、用語の分類を中断し、安全確保へ移ります。次の節では、起きていることに合う公的な相談先を紹介します。
危険や生活への支障がある時の相談先
危険が迫っている時は、まず安全な場所へ移ってください。相談先は、起きていることに合わせて選びます。
- 事件や事故など、目前の危険がある:110番。緊急ではない警察への相談は、警察相談専用電話 #9110。
- 配偶者やパートナーから暴力・支配を受けている:DV相談ナビ #8008。電話をかけた地域の配偶者暴力相談支援センターにつながります。
- 職場でいじめ、嫌がらせ、パワハラが続いている:厚生労働省 総合労働相談コーナー。
- インターネット上で誹謗中傷や人権侵害を受けている:法務省 インターネット人権相談受付窓口。
- 「消えたい」「死にたい」という気持ちがある:厚生労働省 まもろうよ こころで、電話やSNSの相談先を確認できます。
記録を残す場合は、日時、場所、具体的な発言や行動、その場にいた人、仕事や生活への影響を書きます。相手の性格や意図は書き足さず、確認できる事実を残してください。
最後に、この記事の区別をもう一度確認します。論文のBAQとIATは測り方の違い、overtとcovertは行動様式の違いです。困っている場面ではタイプ名を付けず、何が起き、どれくらい続き、生活や仕事にどう影響したかを整理します。
参考にした資料
- 日本版Buss-Perry攻撃性質問紙(BAQ)の作成と妥当性、信頼性の検討
- Measuring individual differences in implicit cognition: the Implicit Association Test
- 攻撃性の顕在的・潜在的測度による攻撃行動の予測
- Best research practices for using the Implicit Association Test
- Empirical evidence for overt and covert patterns of antisocial conduct problems
- Relational aggression, gender, and social-psychological adjustment
- WHO Clinical descriptions and diagnostic requirements for ICD-11 mental, behavioural and neurodevelopmental disorders

