メッセージを送ったのに返事がない。会った時は普通だったのに、次の連絡だけ短い。理由が分からないまま、「潜在的な攻撃性かもしれない」と検索したくなる。言葉に名前を付ける前に、実際に起きたことを戻して見る。
研究で使われる「顕在的」「潜在的」という区別は、人の本心を見抜くラベルではない。質問紙で本人が答える測定、反応時間などを使う間接的な測定があり、対象、課題、状況の組み合わせで結果が変わる。日常の相手を採点する道具にはできない。
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潜在的攻撃性と顕在的攻撃性には二つの使われ方がある
最初に、届いた文や聞いた言葉をそのまま書く。「既読になったまま三日返事がない」「会議で私の発言だけ遮られた」。そこへ日時、場所、相手との関係、同席者を足しておく。
「嫌われた」「わざと困らせている」という解釈は、事実の欄から外しておく。解釈が浮かぶこと自体は自然だ。起きた出来事と一緒に置かず、後で別に見直す。
| 区別する場面 | 顕在的の意味 | 潜在的の意味 | ここからは判断できないこと |
|---|---|---|---|
| 研究上の測定 | 本人が質問紙で報告した攻撃傾向 | IATなどの間接的な課題で測る連合 | 本人の本心、診断、将来の行動 |
| 行動の表れ方の説明 | 表立った、対面的な行動 | 隠れた、非対面的な行動と説明されることがある | 一つの曖昧な行動から、その人に攻撃意図があるかどうか |
論文にBAQやIATと書かれていれば、測定方法の話です。「表立った行動」「隠れた行動」と書かれていれば、行動様式を分けている可能性があります。ここを見分けると、同じ言葉なのに説明が食い違って見える理由が分かります。
研究では、二つの攻撃性をどのように測り分けるのでしょうか。国内で使われている質問紙とIATの例から確認します。
研究では質問紙とIATを使い分ける
顕在的攻撃性を質問紙で測る例
顕在的な測定は、本人が質問に答える、行動を意識して報告するなど、回答として表に出る方法を指す。研究では日本版Buss-Perry攻撃性質問紙(BAQ)が使われることがある。回答はその時の理解、気分、答え方の影響を受ける。
質問紙は、用意された項目への自己報告を数値化したものです。誰かを診断するための判定表ではありません。
潜在的攻撃性をIATで測る例
潜在的、研究論文でいうimplicitの測定は、IAT(潜在連合テスト)のように、反応時間や連想課題を使って概念同士の結びつきを調べる方法を指す。IATは課題が測る関連づけを研究の条件の中で扱う。個人の「隠れた本性」を直接読む検査ではない。
IATは、本人が隠している攻撃計画を読み取る検査ではありません。IATの研究実務に関する指針も、単回の得点で個人を分類したり診断したりしないよう注意を促しています。
二つの得点は個人の診断結果ではない
2013年の国内研究では、大学生71人の顕在的攻撃性をBAQ、潜在的攻撃性をIATで測り、実験中に相手へ与えた不快な音の強さとの関係を調べました。この実験では、IAT得点と音の強さに関連が見られましたが、BAQ得点との関連は確認されませんでした。
対象は71人の大学生で、行動指標も実験室内の一つの課題です。この結果だけで、「IATの得点が高い人は日常で攻撃する」「BAQの得点が低い人は安全だ」と結論づけることはできません。研究結果を読む時は、対象者、測定方法、観察した行動まで一緒に確認します。
その論文が扱った人、年齢、参加者数、課題を確認する。顕在的な質問紙か、潜在的な反応課題か、実際の行動をどう測ったかも見る。研究者が書いた限界と、結果が当てはまる範囲をメモに残す。
タイトルに「潜在」「顕在」とあっても、相手の性格を測るチェックリストへ変えない。自分の状況に戻り、言葉・行動・頻度・安全・生活への影響を確かめる。
「見える攻撃・隠れた攻撃」は別の分類
攻撃行動の研究には、表立った行動をovert、隠れて行われる行動をcovertと分ける考え方もあります。これは、質問紙とIATを分けるexplicit・implicitとは別の軸です。
1985年のメタ分析は、児童の反社会的行動を対象に、口論やけんかなどの対面的な行動と、盗みや無断欠席などの隠れた行動を検討しました。成人の日常のやり取りを判定した研究ではありません。
「潜在的」という日本語だけを見て、「表には出さない悪意」と読み替えると、研究上の意味から離れます。英語の用語、測定方法、研究の対象者まで見ると、どちらの分類なのかを確かめられます。
実際の人間関係では、用語を分けても相手の意図までは分かりません。次は、曖昧な行動をどう整理するかを確認しましょう。
無視や返信の遅れだけでは攻撃性を判断できない
メモには、言葉、行動、頻度、受けた影響を書く。「資料を渡さない」「必要な連絡を私にだけ送らない」「週に三回、皆の前でからかわれた」のように、確認できる形に残す。
一度の行き違い、繰り返される無視、業務や生活の支障は、同じ欄に詰め込まない。何が続き、何が困りごとになったかを確認する材料へ変える。
相談先には、相手の性格を推測せず、実際に起きたことを伝えます。次の項目を整理しておくと、状況を説明しやすくなります。
- 実際に言われた言葉、行われたこと
- 一度だけか、繰り返されているか
- 日時、場所、その場にいた人
- 業務に必要な情報が共有されなかったなど、仕事の進行への具体的な支障
- 仕事、睡眠、生活、安全への影響
意図が分からない時も、業務や生活への支障は具体的に相談できます。日時と行動を事実として残しておけば、職場の相談窓口や公的機関へ状況を説明しやすくなります。
さらに、「間接的攻撃」「関係性攻撃」「受動攻撃」という近い言葉もあります。似て見えても、すべてが潜在的攻撃性の言い換えではありません。
間接的攻撃・関係性攻撃・受動攻撃は同義ではない
間接的攻撃、関係性攻撃、受動攻撃は、研究史と定義を確認してから使う。たとえば関係性攻撃の研究は、仲間関係や集団への所属を傷つける行動を扱った。IATで測る潜在的攻撃性は、測定方法の軸が異なる。
これらは研究の対象、定義、測り方が異なります。「直接殴らない攻撃」を一括して潜在的攻撃性と呼ぶことはできません。もし「潜在的攻撃性パーソナリティ障害」という名称を見かけても、正式な診断名だとは限りません。今回確認したICD-11の公式資料では、この名称を診断名として確認できませんでした。ウェブ上の特徴一覧だけで、自分や相手へ病名を付けないでください。
脅しや暴力が起きている場面では、用語の分類を中断し、安全確保へ移ります。次の節では、起きていることに合う公的な相談先を紹介します。
危険や生活への支障がある時の相談先
怒鳴る、脅す、つきまとう、行動を監視する、連絡やお金を制限する。こうした出来事がある時は、攻撃性の測定や相手の本心を調べ続ける段階を終える。安全な場所、記録の保管先、相談する人を確かめる。
職場の問題は社内窓口や人事、外部の相談先へつなぐ。つきまといや脅しがある時は、公的な相談機関や地域の警察など現行の案内へ戻る。個別の制度や窓口名は、公開時に公式情報をread-backして置く。
- 事件や事故など、目前の危険がある:110番。緊急ではない警察への相談は、警察相談専用電話 #9110。
- 配偶者やパートナーから暴力・支配を受けている:DV相談ナビ #8008。電話をかけた地域の配偶者暴力相談支援センターにつながります。
- 職場でいじめ、嫌がらせ、パワハラが続いている:厚生労働省 総合労働相談コーナー。
- インターネット上で誹謗中傷や人権侵害を受けている:法務省 インターネット人権相談受付窓口。
- 「消えたい」「死にたい」という気持ちがある:厚生労働省 まもろうよ こころで、電話やSNSの相談先を確認できます。
気になったやり取りを一件だけ選び、日時、場所、言葉、行動、頻度、困った影響を書いておく。説明できる事実があれば、信頼できる人や窓口へ話す時も順番を作りやすい。
怖さや脅しがない場面では、次の連絡で確認する、距離を少し取る、別の人に相談するを選ぶ。危険や生活への大きな支障がある場面では、研究用語の整理を止め、現行の安全案内へ進む。
参考にした資料
- 日本版Buss-Perry攻撃性質問紙(BAQ)の作成と妥当性、信頼性の検討
- Measuring individual differences in implicit cognition: the Implicit Association Test
- 攻撃性の顕在的・潜在的測度による攻撃行動の予測
- Best research practices for using the Implicit Association Test
- Empirical evidence for overt and covert patterns of antisocial conduct problems
- Relational aggression, gender, and social-psychological adjustment
- WHO Clinical descriptions and diagnostic requirements for ICD-11 mental, behavioural and neurodevelopmental disorders

